モロッコの建築やハマムで目にする、光をやわらかく映す壁。タイルとは違う、継ぎ目のないなめらかな表情をつくる伝統的な仕上げが「タデラクト(Tadelakt)」です。
タデラクトとは
タデラクトは、石灰を主な材料とするモロッコの伝統的な左官仕上げです。ハッサン2世モスク財団の解説では、石灰を塗った面を小石で磨き、最後にブラックソープ(サボンノワール)を用いて仕上げる工程が紹介されています。
表面は鏡のように均一ではなく、手仕事ならではのわずかな揺らぎがあります。光の当たり方で濃淡が変わり、壁そのものが静かな装飾になるのが魅力です。
ハマムと深く結びついた素材
タデラクトは水まわりと相性のよい仕上げとして、モロッコのハマムや建築に受け継がれてきました。石灰の面を磨き、ブラックソープで最終仕上げをすることで、表面を緻密に整えていきます。
NECTAROMEの世界を知るうえでも、ハマムは欠かせない文化です。肌を洗うための道具や素材だけでなく、壁、光、香り、蒸気まで含めて空間全体がモロッコの美容文化を形づくっています。
色と質感がつくるモロッコらしさ
タデラクトには顔料を加えることができ、砂や土を思わせるベージュ、赤みのあるブラウン、深いグリーンなど、モロッコの風景になじむ色調も見られます。マラケシュ(Marrakesh)のリヤドやハマムで感じる、乾いた土地の色とやわらかな光。その雰囲気を支えている要素のひとつです。
大量生産の壁材にはない、不均一さを美しさとして残すこと。素材を磨き、時間をかけて仕上げること。タデラクトを知ると、モロッコの美容と建築には、自然素材と手仕事を大切にする共通の感覚が流れていることに気づきます。
ブラックソープとの意外なつながり
ハマムで身体を洗うために使われるブラックソープが、建築の仕上げにも関わっているのは興味深いところです。ハッサン2世モスク財団は、最終工程でブラックソープを用いることがタデラクトの表面を整える役割を担うと説明しています。
美容のための素材と建築の技法が同じ文化の中でつながっている。タデラクトは、モロッコの暮らしを少し違う角度から見せてくれる伝統です。
参考:Fondation de la Mosquée Hassan II de Casablanca「Le Tadelakt」